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A ROOM OF WONDER TO CELEBRATE 35 YEARS OF
WOUTERS & HENDRIX


細かなディティールやオブジェクトが
愛や音、光景などの香り豊かな思い出を
魔法のように呼び起こすことがあります
それは素晴らしい瞬間で
それらのオブジェクトは宝物なのです


クチュール的でありながら独特のユーモアを持ち合わせた大胆な作品を生み出すジュエラー、WOUTERS&HENDRIX(ウッターズ・アンド・ヘンドリックス)の35周年を記念し、ベルギーのアントワープにあるDIVAダイヤモンド博物館にて3つの部屋を使った企画展が行われました(2019年9月12日~2020年2月16日)。300種類を超えるジュエリー、オブジェ、サルバドール・ダリやマン・レイなどのアートピースを通じて、デザイナー2人の頭と心の中を覗き見るような空間がセノグラファーのBob Verhelstにより創り上げられたのです。

その想像力豊かな会場に魅了されたWOUTERS&HENDRIX COLLECTOR、古田 絵里による4回にわたる訪問記をお届けします。

2回目の今回は、GOLDに包まれた1つ目の部屋への扉を開きます。
 
(過去の特集はこちら) Vol.1 Introduction
 



Vol.2 Gold: the subtle game



『ROOM OF WONDER』は訪れる人を
WOUTERS&HENDRIXの世界への旅に誘います。
3つの部屋に分かれた展示の
まず最初の部屋は「PALAZZO(宮殿)」。

古代より富や権力の象徴として
地球上でもっとも高価な金属であるゴールドも
WOUTERS&HENDRIXの手にかかると
あいまいで詩的な特性を帯びることになる。

黄金の輝きで包み込まれたこの空間には
WOUTERS&HENRDIXのジュエリーたちと
破壊的なアート作品やシュルレアリスムの象徴、
類い稀なる職人技との
ダイアローグ(対話)が存在している。
 
扉を開けると、薄暗い中にイントロダクション、そしてWOUTERS&HENDRIXのコレクションの数々が浮かび上がるように飾られていた。つい自分の持っているものや買い逃したものを目で追ってしまう.. がしかしここで立ち止まってはいられない。

 
部屋の壁面すべてをやわらかな金の輝きで見せる。この企画展のセノグラファーでもあるBob Verhelstが手掛けたもの。
W&HのMy Favouritesコレクション”Chapters Ring”。ネックレスなどで使っているさまざまなチェーンの型を使い、7連の指輪にデザインしたもの。2002年に登場したこの作品は身に着ける人や重ね方によって新たな発見がある。本来はしなやかで流動的であるチェーンを固めるという発想も面白い。これはW&Hのシュルレアリスムの表現である。
また、Chapterとは、第一章など区切りの意味を持ち、身に付けるひとの人生の節目に、第一章、第二章と加えていって欲しいという気持ちから作られたそう。

空間を共にするのはベルギーのアーティストMichel Françoisの「Pringles et cacahuètes」(2002)。お馴染みのおやつがブロンズで作られた。奇しくも同年に生まれた作品同士、時を経てこれからも魅力が増すような雰囲気を双方が持っている。

Photo:©Frederik Beyens

 
2014年のホリディコレクションで登場して以来、人気のある大きなペーパーパールがついた安全ピンブローチWouters & Hendrix Holiday Collection (2014)は19世紀のパールで飾られた時計やスイスのアーティストMeret Oppenheimの作品「ring with sugar cube」(1936–37)と共に。メレット・オッペンハイムは、W&Hが敬愛する、30.40年代に活躍したシュルレアリスムを表現する女性アーティストで、今回の展示でも幾つかの彼女の作品が見ることが出来た。
白いパールと白い角砂糖の組み合わせ、ピュアな雰囲気のある部屋に仕上がっている。
ワインがはいっているかのような紙袋はなんと銀とホワイトゴールドで作られている。 スイスのDavid Bielanderの作品「Paper Bag」(2016)。
金属の可能性や奥深さを同じように感じる。W&Hのハンマー仕上げのアームバンドやリングを共に展示されていた。
Man Ray 「La Jolie」(1970)マン・レイの金で作られた横顔のネックレスは、W&Hが2010年に手掛けたコレクション“Liquid Shapes”の揺れるくちびるとチェーンが横顔になるネックレスと共に、まさに対話しているような、シュルレアリスムにユニークさを加えた空間となっている。
今回の舞台美術を手掛けたシノグラファーBob Verhelstの2018年の作品。ゴールドの壁面はまさにこの作品から生まれたものであろう。同様に、今回は壁一面に一枚一枚貼ったと思うと気の遠くなるような作業だ。
頭上にはゴールドチェーンのネックレスをくわえた鳥が居た。訪れる人々の反応を見るかのように、室内をじっと眺めている。W&H25周年のBOOKにも登場していた、アイコン的存在。 Freddy, model Grigri collectie,(2000)
Oxana Shachkoの作品(2014–16) オクサナ・シャチコはウクライナの芸術家でフェミニスト活動家グループFEMENの創設者の一人。彼女の作品は芸術的な美しさと職人技、社会的批判を巧みに組み合わせ表現されており、ここに飾りたいとデザイナーたちは直感的に思ったのだと聞いた。 フェミニスト精神と関係するかは分からないが、W&Hのチームはデザイナー・経営者・職人・スタッフ皆が女性で形成されているのも興味深いところ。

Photo:©Frederik Beyens
スイスの女性芸術家メレット・オッペンハイムの静脈が描かれたレザーグローブ。Meret Oppenheim 「Untitled, gloves with vein motif,」(1942)
静脈は時に珊瑚や根っこ、枝にも見える。 W&Hの2016年のコレクション「Too Many Hasbands,Too Little Jewelry」では根っこをモチーフとし、女性が持つ揺るがない強い芯のようなものを表していた。
Van Cleef & Arpels 「Zip」 necklace (1952)
イギリスのウィンザー侯爵夫人からのオーダーで製作されたVan Cleef & ArpelsのZip Necklace。ネックレスとして着用することも、ファスナーを閉めてブレスレットとすることも出来るという、当時にしても前衛的で驚くべき作品だ。
最高級の職人技と創造性を表したこの作品を、ROOM OF WONDERで展示したいとW&Hのふたりは切に願い、その夢は叶った。
メッセージ性のある原始的な記号や岩絵に触発されたコレクション。手で練り型を作ったという触覚的で不完全な作品は太古のジュエリーを連想させる。
ラフでありながらも洗練されたこれらのジュエリーは各国のファッション誌の表紙も飾り、ブランドの大きな節目にもなった。

Wouters & Hendrix Stones for Wilma, ring (1990)

傍らの書籍はブランドのロゴマークにもなっている、ヴィレンドルフのビーナスのページが開かれている。

 
鳥の足テーブル
Meret Oppenheim 「Traccia」 (Italy, made in 2007)

2007年にロンドンのVictoria&Albert Museumで開催された“Surreal Things”展を訪れた際に、W&Hのふたりはこの鳥の足のテーブルと出会った
テーブルトップには鳥の足跡がついており、自分たちの鳥の爪のジュエリーコレクションを思い出させた。
数か月後にオープンを予定していたW&HのGold Collectionの店にぴったりだったので、なんとかして手に入れようとし実現した。普段はWOUTERS&HENDRIXのアントワープの直営店で見ることが出来るが、もはや無くてはならない存在だ。

オリジナルの作品は1939年にシュルレアリスムの女性芸術家メレット・オッペンハイムによって作られたもの。
そして、彼女たちの作る数々の鳥の足コレクション。鋭い爪でガーネットや真珠を掴んでいる。
2000年にシルバーの作品“Grigri”で登場し、のちにGold Collectionでの定番となった。
Grigriとはフランス語でお守りの意味を持つ。
記憶H.P.FRANCEではガーネットを掴む金のネックレスが見られる。
Man Ray (Philadelphia, 1890– Paris, 1976)Optic Topic, mask, Milan, 1974 design; 1978 execution



Photo:©Frederik Beyens
シュルレアリスムの代表的な画家であるサルバドール・ダリは空想的なジュエリーも作っていた。
これは電話のイヤリング。ゴールドの受話器からはエメラルドとルビーが下がり、ダイヤモンドが飾られた。Salvador Dali 「La persistencia del sonido」(1949)
ダリにとって金は、富の象徴としてではなく、魂の祝福、純粋さのしるしとして魅力的な存在だったそう。
小さな電話を耳元に飾るように、小さな椅子やムール貝を首から下げるという、両者のジュエリーによって話し、想像することを楽しむ姿勢が見られる。
WOUTERS&HENDRIXによって1991年に作られた幾つかのHealing Jewelry
国内外のアーティストや美術館から貴重なアートピースや宝飾品を借りての展示には心底驚き、また歴史を重ねてきた実力あるそれらと並んでも遜色のないWOUTERS&HENDRIXの作るものの凄さを感じた。(それをお店で取り扱う私たち.. と急に震える思いもした。) それぞれの個室(ショーケース)でひそひそと対話しているかのような雰囲気もW&Hらしくユーモアがあった。時代を超えて出会う作品たちはお互いに何を語らうのだろう?  また私自身ここで見なければ一生目にすることはなかったであろう貴重なアートピースの数々をWOUTERS&HENDRIXを通して実際に見ることが出来たことに深く感謝した。今思い出してももう一度見に行きたいくらいだ。 夢見心地で気づけば何周も見ていたが、はっとして次の部屋「ANTICHAMBRE(待合室)」へ向かった。

2020年2月5日
WOUTERS&HENDRIX COLLECTOR 古田 絵里

『ROOM  OF WONDERⅡ』@DIVA ANTWERP HOME OF DIAMONDS Scenography concept:Bob Verhelst Curation:Romy Cox, Katrin Wouters & Karen Hendrix


「Vol.1 Introduction」はこちら
「Vol.3 Finds: beauty is all around」はこちら
「Vol:4 Silver: the playful experiment」はこちら
「番外編: rooms40後記」はこちら