2020年秋冬コレクション H.P.FRANCE PRESS × BUYER対談
「今、私たちが思うこと。私たちが出来ること」


新型コロナウイルスの影響で、生産や販売などが世界中で一時停止し、変革を迫られているファッション業界。ヨーロッパを拠点に活動するアッシュ・ペー・フランスのクリエイターたちも例に漏れず、この未曾有の危機に直面しています。創業から35年、クリエイターと深い関係を築いてきたアッシュ・ペー・フランスが、今できることは何か。プレスの江間がインタビュアーとなり、ヨーロッパで長年買い付けを行なっている町田と関口に、今思うことを聞きました。


PROFILE


H.P.FRANCE PRESS 江間 亮子(えま りょうこ)
90年代の「フレンチスタイル」ムーブメントの洗礼を受け、一歩でもフランスの文化に近づきたく、96年にアッシュ・ペー・フランスの門戸を叩く。以降ファッションの持つ魔力に囚われて、「伝える人=PR」であるべく奮闘中。

H.P.FRANCE BUYER 町田 小都美(まちだ さとみ)
ヨーロッパ部門のアクセサリー小物のバイイングを担当。毎年コレクション時期にロンドン、ミラノ、パリへ買い付けに行く。

H.P.FRANCE BUYER 関口 元(せきぐち はじめ)
メンズセレクトショップ販売スタッフとしてアッシュ・ペー・フランス入社。同店バイヤーを経て、ヨーロッパ小物の卸営業を経験後、商品部にてJAMIN PUECHやSERGE THORAVALなどのブランドを担当している。




コロナ禍でバイヤーの二人が感じることとは?


江間 町田さんと関口さんは、かれこれ25年に渡り、年4回以上は買い付けなどのため、日本とヨーロッパを行き来する生活を送ってきました。しかし今年は、新型コロナウィルス感染拡大の影響で現地に行けずイレギュラーな事態が続いていますが、海外の空気を吸う生活が日常化していた二人にとって、今の心境はいかがでしょうか。

町田 私は正直なところ、日本で普通に過ごす9月(取材当時)が楽しくてしょうがないです笑。 9月生まれなので、誕生日はずっと海外で出張中に迎えていましたから。

関口 僕も10月生まれなので飛行機での移動中に迎えることも多かったな。

町田 ただ、9月のヨーロッパは一年で一番良い気候。自然も多いし、あの空気感は懐かしく、寂しい気持ちはありますね。

関口 すごく寂しい。このような状況になり、今、クリエイターたちとは新しいコミュニケーションの形を模索しているところです。



江間 世界規模での移動制限により、各メゾンのコレクション発表もデジタル配信に移行する動きが強まっています。賛否両論あるようですが、バイヤーの方々からは不評の声が多いと聞きました。感覚のお仕事だからこそ、全てがデータ化されてしまうと表現の奥行きを感じ辛くなってしまうのでしょうか。

関口 特に、洋服の魅せ方がオンラインではより難しいと感じました。例えば黒い洋服は、画面越しに見ると、どれもただの真っ黒に見えてしまう。実際は素材感やシルエットによってディテールが異なりますが、そこを目で見て触れて確認できないから、かなり苦労しましたね。

町田 日本でデータの情報だけを頼りに見ると、モノやデザインの良し悪しで判断することになってしまう。感覚を大事にする仕事だからこそ、ヨーロッパの、そのシーズンの、その場の雰囲気を感じ取って買い付けたくなる色や素材の選び方があり、それを基準にシーズン全体の方向性も考えます。日本を出発する前には想定していなくとも、現地に行くと「このアイテムは少し難しそうだけど、今の気分に合っているからオーダーしてみよう」という流れで決まることも。そういう面がないと、ただの商品の選定になってしまう。

関口 街やアトリエの雰囲気、クリエイターが出してくれるお茶一杯の演出や心遣いでもすごく気持ちを動かされるし、気分が変わってきますね。
ただ、オンライン上の買い付けならではの良さもあると思います。今まで限られた時間でクリエイターにアポイントを取ってオーダーを決めていましたが、オンラインではいつもより長時間じっくり話をしながら内容を考えられました。

町田 ここ数年ファッション市場は飽和状態で、展示会でもクリエイションを感じられるブランドが少なくなっていました。疑問を抱きながらも年に二回の買い付けには行かなければならず、自分の中でなかなか切り替えが難しかった。今回のイレギュラーな状況と、時代の流れでデジタル化が加速したことをきっかけに、自分の視点を変えて、新しい挑戦ができると前向きに捉えています。


クリエイターたちに芽生えた変化


江間 ヨーロッパは日本にいる私たちの想像を絶する被害の大きさで、現地のクリエイターたちへの打撃も相当なものだったと聞きました。

関口 ロックダウンで身動きが取れない中、2020年秋冬コレクションの生産をしながら次の2021年春夏コレクション発表の準備もしなければいけない。日本と違い職場へ出社することも禁止されていたため工場やアトリエも稼働せず、予想以上に動きが止まっている状態でした。
ベトナムとインドに工場を抱えるJAMIN PUECH(ジャマン・ピュエッシュ)は、工場があるエリアがロックダウンしたため、急遽別のエリアに工場を移し秋冬の生産や春夏のサンプル作りをしていました。かなり早い決断が必要だったし、相当な労力を要したと思います。

江間 グローバルにサプライチェーンを持つ大きなブランドだからこそ、コントロールは大変だったでしょうね。
一部のメゾン系ブランドなどは、メンズとレディース合わせて年6回ほど発表していたコレクションをメンズ、レディースの合同開催や、2回に絞るという動きが出始め、表現や発信の方法もより多様化していくと感じています。

関口 シーズンごとにコレクションは発表するけれど、半年後すぐにセールで消化するのではなく、販売期間を一年間に設定し、丁寧に売っていくことを決めたブランドもあります。

江間 ヨーロッパを中心に生活するクリエイターたちも、生活様式の変化や新たな価値観の創造を迫られていると思います。彼らのマインドに変化を感じることはありましたか?

関口 皆それぞれ試行錯誤しながら対応していましたが、中でも一番ポジティブで印象的だったのがCOLLECTION PRIVEE?(コレクション・プリヴェ?)のチームでした。今年は殆どのブランドが、先の状況を見据えてコレクションを絞り発表する傾向にある中で、彼らに限っては「ロックダウン期間中にどんどんアイディアが湧いてきたから、沢山コレクションを作った、すごく楽しかったよ!」と、商品数を絞ることなく今の自分たちのクリエイションを発表しました。その姿勢には、他のクリエイターとは違うエネルギーを感じました。

COLLECTION PRIVEE?デザイナーのベルジニア・ビッツィ(左)とマッシモ・ビッツィ(右)


町田 クリエイションが好きで、ものを作ること自体に価値を置いている人たちなのでしょうね。通常よりクライアントからのオーダーが減ることや、生産する型数を増やすと効率が悪いという懸念事項よりも、ものを作りたいという思いが強いのだと思います。
この状況でも、アッシュ・ペー・フランスのクリエイターたちからはどこかマイペースさを感じるというか、あまり悲壮感は感じられないことが印象的でした。彼らにとって、作ること自体が自分たちの仕事であり喜び。生活そのものだから、その気持ちは変わらないのだと思います。


持続可能なものづくり


江間 クリエイターとの関係性を大事に築いてきた二人だからこそ、改めて気づいたことはありますか?

町田 彼らとの長年の関係は一方的な損得ではなく、全てが相互に繋がっています。今回、止む無く一部のオーダーをキャンセルしなければならず、ブランド側にとってはせっかく作ったものの買い手を失う状況でしたが、お互い大変だから助け合おうという姿勢で前向きに対応してくれたことが印象的でした。目先の損得ではなく、お互いにとって良い形をクリエイター側が自然にとってくれる優しさが身に染みました。

関口 他に売り先もない中で、クリエイター自身も相当な打撃を受けていたはずなのに、とても理解があったよね。「このラインだったら自分たちのお店でなんとか対応できるから、これをキャンセルしにしよう」など、逆にアドバイスをくれたり笑。

町田 生産が完了し梱包された状態で空港がロックダウンに突入してしまい、一ヶ月留め置きになったこともありました。そんな状況に直面したとき、量産されたものとは異なり、クリエイターの手によって大事に作られた商品を売り時期を逃したからと言って無駄にすることは絶対にしてはいけない、と強く感じました。クリエイターが作るものに対して、現在恒常化している半年という短いサイクルに捕らわれず、大切に売らなくてはという意識が改めて芽生えました。

関口 歩みを共にしたクリエイターたちのクリエイションを広め、それにはクリエイションが生まれる背景も含めて伝えていかなくてはならない。そこが、私たちの一番のミッションであり、面白さを感じているところ。結果的に、彼らがモノづくりに没頭できる環境づくりの支援にも繋がっていると感じています。

江間 近年「サステイナビリティ」という言葉が注目されるようになりましたが、私たちアッシュ・ぺー・フランスがクリエイターと築いてきた関係性こそが、サステナブル(持続可能)な行動だったと改めて気づかされましたね。

関口 そうだね。日本の市場に合わせてクリエイターと一緒に商品を考えたこともありましたが、やっぱり彼らが作りたいものを好きなように作ってもらい、ヨーロッパの空気感をそのまま日本で伝えることが、一番面白いんじゃないかと思います。忘れかけていた要素だけど、やっぱりそういう活動を一番やりたいと改めて思いました。

江間 その行動が、究極のサステイナビリティに繋がっていくのでしょう。市場に合わせた商品は消費で終わってしまうけれど、クリエイターが作りたいものを作る活動に、きっと終わりは来ないはずだから。


今、気持ちにフィットするブランド


江間 二人にとって、特に今の気持ちのフィットするブランドはありますか?

関口 一つはSERGE THORAVAL(セルジュ・トラヴァル)。自粛期間中、お店のスタッフに向けた資料作りのために、色々ブランドについて再検証する機会を得ました。そこでセルジュの言葉一つ一つと、改めて向き合ってみました。それまでもずっとセルジュのアクセサリーは身に着けていたけれど、彼の言葉が胸に刺さり、やっぱり「本物」であることを再認識しました。
もう一つはWOUTERS&HENDRIX(ウッターズ・アンド・ヘンドリックス)です。今年2月に開催した合同展示会roomsでインスタレーションを行い、彼女たちのクリエイションの本質を間近に感じ、その表現の豊かさが素晴らしいと思いました。毎シーズン、その時の気持ちを作品に落とし込んでいますが、彼女たちの積み重ねられた知識と経験の深さがコレクションに表れていて、感銘を受けましたね。
WOUTERS&HENDRIX(記憶 H.P.FRANCE
町田 Faliero Sarti(ファリエロ・サルティ)は、今までモデルを起用し素敵なビジュアルでコンセプトを表現していましたが、2020年秋冬シーズンはデザイナーのモニカ自身がモデルとなって登場したり、リモートでコレクションを一つ一つ丁寧に私たちに説明してくれたりと、自身がコレクションに真摯に向き合う姿勢が見えました。クリエイター本人が伝えることにより、より愚直にブランドへの想い、根底にあるものが伝ってきました。
関口さんと同じく、自粛期間中に改めてブランドについて調べていると、自分自身も改めてそのブランドの良さに気づき、好きになる機会になりました。

デザイナーのモニカ・サルティがモデルとなった、Faliero Sartiの新作イメージビジュアル


町田 パリジェンヌに絶大な人気があるバッグブランドのJEROME DREYFUSS(ジェローム・ドレフュス)は、20年近くアッシュ・ペー・フランスで展開しています。ブランド特有の、フランス人が大好きなノンシャランな感覚はなかなか日本的価値観に響きにくさも感じていましたが、それでも彼のクリエイションをもっともっと日本のお客様に感じてもらいたいと思っています。視点を変えると、コロナ禍で日本人の生活スタイルや価値観に変化が生まれ、肩肘張らず自然体なジェロームの空気感が、より私たちの気持ちに沿うのでは?と思っています。

江間 ずっと何かを追いかけ走り続けていきた生活が一旦止まり、自分の生活を見つめ直す機会になる。自分が本当に愛着を持って使えるものを長く大切に使い、自分仕様に仕上げるというフランス人のスタイルが、日本でもより広まっていくかもしれませんね。
JEROME DREYFUSS(Theatre H.P.FRANCE 六本木

最後に...


江間 二人が見つめてきたこの20数年の中で、特に印象的な出会いを果したブランドや、長い関係性の中で価値を見出してきたと自負するクリエイターはいますか?

町田 私はやっぱりDELPHINE CHARLOTTE Parmentier(デルフィ-ヌ・シャルロット・パルモンティエ)との出会いが衝撃的でした。とにかく彼女の生き方や考え方、もの作りに対する姿勢はクリエイターの中のクリエイターだと思います。そんな人が身近にいて一緒に仕事ができたことで、自分の中での「クリエイター像」が確立され、自分自身の指針ともなっています。

関口 JAMIN PUECHはアッシュ・ペー・フランスがすごく影響を受けたブランドの一つだと思いますね。パリでコレクションを発表する時、そのシーズンのテーマに添った徹底的な会場作りに衝撃を受けました。当時の出張で一番の楽しみであり緊張したのは、彼らの展示会の扉を開く瞬間でした。コレクションを発表する上で会場作りがすごく大事と言う彼らの表現方法にインスパイアされ、私たちも日本で同じように再現し、お店のディスプレイやウインドウに活かしてきました。



関口 もう一つ、別の意味でリスペクトしているブランドがGEM KINGDOM(ジェム・キングダム)です。デザイナーは二人ともとてもシャイですが、拠点のアムステルダムで会うと本当に気さくで、普段ランチの時にサンドイッチを買うお店や、途中に立ち寄る本屋など、日常を紹介してくれます。コレクションは歴史に関わるテーマが多く、蓄積された知識が落とし込まれていて、一つの作品が生まれるまでのストーリーを感じる大好きなブランドです。

江間 何より真近でクリエイターの思いに触れて来た二人、その思いを知ることが出来ました。
改めて今の私たちにできることとは、クリエイションが作る輪を大事にし、そしてそれを丁寧に伝えていくことだと思います。