JACQUES LE CORRE パリ物語Vol.04


完璧な彫刻のように美しい帽子と共に突然パリモード界に現れ、辛口の批評家や目の肥えたバイヤーからも熱狂的賛辞を受けたJacquesは、瞬く間に世界的にその名を知られるようになり、多くのメゾンからデフィレやオー・ト・クチュールの為の帽子制作の依頼を受けていました。その中でも、JACQUES LE CORREの象徴的な帽子として、一世を風靡したのが、クロシャール・ド・リュクスです。連載第4回目は、クロシャール・ド・リュクスの変遷と変わることのないこだわりをご覧いただきます。


JACQUES LE CORRE アトリエ 1989/ WWD
 
 
 
98年、二人でブランドJACQUES LE CORREをやっていくことになり、JacquesはMasumiにそれまでの自身の作品写真を見せながら、そのクリエイションについて説明します。

♪Hé, Andy Hé, Andy
「Magnifique! すごいね、Jacques」
「J’aime bien 素材と色を組み合わせるのが大好きなんだ。
J’ai réalisé 他のクリエイターから注文を受けて、いくつものコレクションを作っていたけど、自分のコレクションを作るほうがずっと面白い。帽子作りは、何でも出来る。服を作るよりもずっと自由だ」
「J’aime bien ça! これ、この水色の帽子、かっこいい」
「Tu aime? OK, あげるよ」
「Ehhh! 嬉しい。Merci, Jacques」
それまでに見たことのないような独創的な作品に、Masumiはすっかり夢中になりました。

♪Allez, Andy, quoi! oh dis-moi oui.
「Mais, ピエス・ユニークは時代遅れになる。これからは、クロシャール・ド・リュクスだ」
「Ah! Pourquoi tu dis ça? えっ、なんで。もったいないじゃない」
「Ne convient pas もう時代じゃない」
それまでJACQUES LE CORREのオー・ト・クチュールの帽子は、撮影にも多く取り上げられ、写真の中での圧倒的な存在感を記憶していたのはMasumiだけではありませんでしたが、Jacquesは意見を変えませんでした。

その数日後、馴染みの職人のところへ新しいクロシャール・ド・リュクスの木型制作を依頼します。
「C’est ça ! これからは、この形だ」
「Uhmmm…」
「C’est sûr. 間違いない」
♪Dis-moi oui Andy
JACQUES LE CORREブランドの象徴である帽子クロシャール・ド・リュクスは、誕生以来、時代と共に形を変化させてきています。 80年代当初は、オペラハットに近いもので、キャロットの高さがとても高いものもありました。90年代に入ると、キャロットの上部を細く絞り、独特な軽さを表現。その後、また最初の形に近いボリュームにしますが、少し角を取り、やわらかい雰囲気を出すものにしています。
「Il me paraît impossible de parler de tendances ou d’idées コレクションの傾向とかアイデアとかは、話せないけど…。帽子は、それを身に着ける人のシルエットに雰囲気を与えてくれる。帽子と時代感は密接だから、どの木型を使うのか、それはとても重要なんだ」
「Je le comprends. わかる。雰囲気が全然違うもの」

素材見本が全て届くと、二人は素材ごとに作るモデルを決めます。クロシャール・ド・リュクスは毎シーズン6素材以上を使って展開しますから、色を合わせると20型以上になることもあります。
そして、南仏のアトリエでのサンプル制作が始まります。
「Oui, c’est bon. En suite...Orange, s’il te plaît. はい、ストップ。次はオレンジで」
JacquesとMasumiは、クチュリエールの横について、ストライプの色の順番と分量を見て確かめながら、配色を完成させていきます。
クロシャール・ド・リュクスは、1本のコードを縫い合わせていくだけの、とてもシンプルな製法で作られます。この帽子のシルエットを完璧に表現するためにたどり着いた唯一の方法。それは、コードを重ねないで縫い合わせるJACQUES LE CORRE独自の製法であり、他では真似の出来ない、モードの歴史を持つフランスでのみ可能な最高の技術です。1本のコードが1枚の布のようになり、帽子になり、身に着ける人の気分によってさまざまな形に変化していく。この帽子がしわくちゃになっても美しいのは、このためなのです。
赤い髪のクロシャール帽
花飾り付き高いキャロット帽/ 写真 Arthur Elgort
シンプルなクロシャール・ド・リュクスは、これまでも多くの傑作を生みだしてきました。素材として購入したメタル・メッシュをどうやって使おうか決めかねていたときのことです。
♪Nous avons vingt trente quatre vingt deux ans, qu'apporte reste il si peu de temps,
「Qu'est-ce que c'est ça !? Jacques、何これ」
「Pourquoi pas ? いいじゃん」
「Dans Ton Intérêt. 自分用でしょ」
「Ce n’est pas ton affaire ほっとけ」
眼鏡付きクロシャール・ド・リュクスの誕生です。
♪Je compte surtout sur toi certe mon chéri


眼鏡付きクロシャール・ド・リュクス


最近になり、ときどき耳にするようになったクロシャール・ド・リュクスですが、JACQUES LE CORREが使いはじめて30年以上も経ちます。コットン、シュニーユ、そしてJacquesの念願だった革製のものは、Masumiによって実現されています。気分とスタイルに合わせて形を自由に変えられるこの帽子は、パリでは圧倒的支持がありますが、日本から難易度が高いという声も聞きます。
その度にJacquesとMasumi、二人は声を揃え、
「Clochards de luxe、誰でも楽しめる帽子です。自由に形を変えられるので、自由に被ってください。スーツケースに入れても、ほら、この通り。直ぐに被れます。毎日使ううちに、しっくり体の一部になってくる」
良質な素材で作られたものを長く使い、自分らしさを追求する。これはJACQUES LE CORREのクリエイションの姿勢そのものです。


Andy / Les Rita Mitsouko
Le geste / Dani