JACQUES LE CORRE パリ物語Vol.03


JACQUES et MASUMI


ブランドJACQUES LE CORREは、1985年パリで帽子ブランドとして出発し、最初の10年はオートクチュールの帽子を中心に展開されました。その後アッシュ・ペー・フランスと組み、JacquesとMasumi二人でのクリエイションに取り組むことになったその折、帽子に加えバッグをはじめることを決めます。そして、二人で作った最初のバッグがLISBONです。連載第3回目は、このLISBON誕生の経緯をJacquesが本格的に写真に取り組む前に撮影したスナップを含めてご紹介します。

リスボン 漁師町からの眺め
リスボンの路面電車エレトリコ
素材展を終え、二人での最初の大仕事がひと段落した、まだ肌寒い春のはじめ、次のコレクションのインスピレーションを得るために、リスボンへ向かいます。二人の共通の友人で地元出身のティアゴの案内によるリスボンは、パリのように洗練されてはいないけれど、壁面に施されたタイルや優しい色合いの建物が砂糖菓子のように並んだ風景と足元にはモザイクの歩道、その横を走る角のとれた路面電車の外観や磨き込まれた木製の車内の美しさに、二人は直ぐにリスボンを気に入ります。
朝、地元の人がそうするように、町内にひとつはあるカフェに入ると、カウンターでコーヒーと甘い菓子を食べ急いでバスに乗る人、テーブルに座っている知り合いに声をかけ、そのまま隣に腰かけ話し込む人、まるで親戚の家を訪ねたような雰囲気に包まれて、二人もすっかりくつろぎながら、
「C’est bon! Masumi! このパステル・デ・ナタは最高だ。食べてみろ」
「Non, pas moi. そういうのは、苦手」
「Tant pis, ますみの分も食べるぞ」
「Je t’en prie. どうぞ、どうぞ」


目当ての蚤の市は、地元では泥棒市と呼ばれているだけあり、もしかすると、と思われるような物がごろごろしていますが、それでも生き生きしているJacquesを見て、
「Vraiment, tu adores le marketing aux puces. 蚤のマーケティングは、こんなに張り切るのにね」
「Quoi?何が」
「Aucun intérêt pour la mode ファッションの市場調査は、一切やらないでしょ」
「Ce n’est pas la peine.
C’est complétement différent entre le marketing et la création. 必要ないだろ。マーケティングと新しく作りだすことは、全然違う」
「Tout à fait. おっしゃるとおりです」
リスボンの夜、ファドを聴きに出かけます。ファドの家と呼ばれる建物に入ると、壁にぐるりと貼りめぐらされた伝統的な白に青い絵のポルトガルタイルと、青と白のクロスのかけられたテーブルが整然と並んで、手入れの行き届いた温かさを感じさせます。そして幸運にも、すでに人前で歌うことから退いていた伝説の歌手、アルジェンティーナ・サントスが一曲歌ってくれる機会に恵まれます。
♪Volta atrás vida vivida
Para eu tornar a ver
JacquesとMasumiの目から涙がこぼれました。


パリに戻ると、本格的にバッグの創作に取り掛かります。バッグの基本のかたち、持ち手の長さ、ジッパーの位置、金具の形状、最高のプロポーションを目指して、ミリ単位の調整を行います。
「Je n’aime pas la forme de la demi-lune. 三日月のかたちが気に入らない」
「Si, quelque chose nous dérange. うん、よくない」
バッグLISBONのあるべきフォルムとはdécontracté。品質や技術は洗練されていても、くつろいだ雰囲気を持つバッグ。リスボンの町で感じた気取りのない、飾らない、チャーミングさを具えたバッグでした。しかし一方で、なかなか思うような工房が見つからず、ふたりは具現化することに大変苦労します。それは、フランスで長年培われてきた技術が、フランスのエレガンスを支えてきたものづくりが、失われてしまう危機を迎えた時期でもありました。それでも、二人は知り合いから紹介された工房を何軒か訪ねた後、ようやく満足のいく工房に出会います。細部まで比率の描き込まれたデザイン画を基に作られた試作品に、幾度も修正を重ね、ようやくLISBONは誕生します。
LISBONは毎シーズン素材を変え、色を変えてブランドのコンセプトを発信します。Masumiが最も印象に残っているのは、Jacquesが海で拾い集めた漂着物で作ったオブジェをプリントしたLISBONです。バッグもオブジェもJacquesの作品であり、その才能が群を抜いていたことを実感するものでした。Jacquesは一番大きな黒のLISBONを使い続けました。
二人は、シーズンごとに細かな修正を重ねてLISBONを磨き続けます。またバッグ工房の廃業により、新たな工房での制作という経験もします。
LISBON Fish Moyen
LISBON Fish Grand

LISBON を持ったChristine と友人


数年後、Masumiはふと思いつきます。
「Jacques, je veux un autre sac allongé. ジャック 細長のバッグが欲しい」
「Uhm... bon. ふうん」
何日か経った頃、二人で話しているときにJacquesが嬉しそうに、
「Masumi! Regarde,
細長LISBON。シャンペン、入るぞ」
「Super ! Jacques,すごい、すごい」
「Tu vas, 水も入るぞ」
「Je pense... 高さはこのくらいかな」
「Attends, ruban, ruban... J’ai noté! ちょっと待って…サイズ、メモした」
細長いLISBONでさえ、LISBONとは異なる比率によって作られています。あるべきフォルムにするるための試行錯誤を何度も重ね、唯一のプロポーションによって誕生したバッグLISBON。
JacquesとMasumi、二人がリスボンで感じたことを結晶にしたような、持つ人をCoolに見せるバッグです。
LISBON Allongé
Jacques のコラージュによるTiago
♪Vida Vivida/Algentina Santos