植物とその秘められた力に魅せられて


「植物や樹木、鳥の鳴き声、その間を行き交う虫、風の音、香り、自然に囲まれていると、とても嬉しくて、心から幸せを感じる。
自然の力を学び、人の手当てをする、どちらも私の喜びで、私の仕事。私の果たす責任だと思っている」



「ふうぅ、間に合った」
ゆっくり息を吐いて、走り出した列車の座席に座り肩の力を抜いたナヨウニ。
パリから直行列車で1時間半のノルマンディへ、授業を終えたばかりの息子たちと向かう。お腹を空かせた彼らの前にナヨウニ特製弁当が置かれるや否や、二人とも大きく口を開けて頬張る。何とも幸せそうな笑顔とおいしそうな匂いに、横の座席でサンドイッチをかじっていた同じ年頃の女の子が、立ち上がってお弁当箱を覗きに来た。
ナフィサ・ナヨウニは、植物芳香療法、植物療法のプロフェッショナルとしてパリで10年以上の経歴を持ち、また母として、また妻として暮らしている。
平日はパリ、週末はノルマンディで過ごす生活は、面倒なことも多いけれど、大地との関係を忘れないように必要なことだと彼女は言う。アルジェリアに生まれたナヨウニは、幼い頃から自然の中で多くの時間を過ごしてきた。

「アルジェリアの家の造りは、外から見ると門と塀で閉ざされた印象を与えるけれど、門をくぐるとそこは楽園そのもの。中央に置かれた噴水からほとばしる水、その周りには多くの植物と果樹が植えられ、季節ごとに花を咲かせ、実を結ぶ。これは訪問者を歓迎するアルジェリアの習慣を物語っていて、実際に親族や知り合いが絶え間なく訪ねてきては、お茶を飲み、食事をしながら大勢で語り合い、いつでも賑やかなの。テーブルには小皿に盛りつけられた料理がいくつもならび、鮮やかで、華やかで、目と舌でじっくり味わう。母はとても料理上手だから、みんな喜んでとても楽しいのよ。それでもそうした
大人に交じって過ごすよりも、私は庭にいる方が好きだったから、その一角に腰を下ろして、本を読み、植物を見て、何時間でもひとりで過ごした。でも、父について親戚を訪ねて砂漠を旅するのは、大好きだった。夕方出発して、明け方近くに到着するのだけれど、暮れていく砂漠の色合い、星がいっぱいにこぼれた空、一瞬として同じものはない。アルジェリアの美しい自然の圧倒的な存在感とはかなさは、私の人生の一部なの」

「同い年の女の子たちが母親から学ぶのとは違って、私は父の影響を強く受けた。父の日常の姿を見て学んだの。深く印象に残っているのは、8歳のときのこと。私は病気にかかって昏睡状態で、医師からは何も出来ることがないと言われた。それでも父は、必ず目を覚ますから、その時が来るまで待ちますと決めて、待ってくれた。そうしてひと月が経つ頃、私は目を覚まし、体力が回復する時間を含め2ヵ月半ほど病院で過ごした。退院すると、母は私を外に出すことをひどく怖がったけれど、父が医師とじっくり話し合い、大丈夫だからと学校へ送り出してくれたの。あの時、恐れに支配された判断をしていたら、今の私はいないし、ひどく後悔することになったでしょうね。本当に感謝している。あのひと月の間、私は人とコミュニケーションを取ることは出来なかったけれど、守られていることを強く感じていた。それは今、私の仕事の大事な要素になっている」



「植物や樹木、鳥の鳴き声、その間を行き交う虫、風の音、香り、自然に囲まれていると、とても嬉しくて、心から幸せを感じる。自然の力を学び、人の手当てをする、どちらも私の喜びで、私の仕事。私の果たす責任だと思っている。私にとって、植物芳香療法マッサージは、人を気持ちよくするというよりは、その人の体を守るための手当。マッサージを通して、体の状態を読み取り、その人の体に必要なエネルギーをもたらす。オイルに溶け込んだ植物の力を借りて、エネルギーを循環させ、自然との関係を取り戻してもらう。誰かの力になれることは、自然の中で感じる幸福感ととてもよく似ている」

「現代は解決策がたくさん用意されていて、本当に便利よ。でも疑問をもたなくなってしまって、気づかないことも多い。それぞれの土地に特徴があり、その折々にもたらされる季節の豊かさと生命力。私たちの体は季節ごとの恵みを受け取ることが絶対に必要なの。ノルマンディには、農家や酪農で大地と暮らしている人が多いことも、この土地が好きな理由ね。畑から取れる時期のものを料理して、おいしくいただく、とてもシンプルな生活よ。私たちも庭で採れたりんごを持って行って、シードル作りを教えてもらったり、カシスを摘んでジャムにする。去年より薔薇の開花が遅いわね…オイル作りはもう少し先になるわね」

「ママ、もう19時半だよ」畑の手入れをしているナヨウニを息子たちが呼びに来る。
お昼に料理した近所の農場で採れたベットのグラタンの残りと、ご主人が買ってきた鳥の燻製にじゃがいもを揚げて、庭のテーブルで夕食をとる。夏時間のフランスは夜10時過ぎまで明るくて、日の名残りをゆっくり楽しみながらのくつろいだ一家団欒。
まだ夏は始まったばかり。


Nafissa Nayouni(ナフィサ・ナヨウニ)
エコール・ダ・ボリストリ プリヴェ・アタッシェ・オゥ・ルクトラ・ドゥ・パリにおいて植物芳香療法と植物療法を修得。植物学、薬用植物学、解剖学、薬草茶調合、バーム調合、植物生化学、植物幹細胞療法の専門知識を修得し、2008年から自然界に存在するものだけを調合したナヨウニ美容品シリーズの開発を始める。顔と体のお手入れを季節とその方の状態に合わせて調整し提案している。

http://nayouni.com/