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クリエイターとクリエイション
-好きこそものの上手なれ-


陽射しの下で心地よく過ごせる季節になったと感じたのも束の間、フランス全土でセミ・ロックダウンが始まりました。それでも6時から19時までは、外出許可書を持たずに自宅から10㎞までは移動出来るので、昨年のような外出する度に許可書の携帯、1時間、1kmを超えていないかしらと、はらはらすることはなくなりました。
あれから1年が過ぎ、好むと好まざると多くの変化が起きているなか、制作を続けるクリエイター。今回は、自然物からクリエイションする二人についてお知らせしたいと、筆をとりました。



素肌の手入れについて説明するナヨウニさん

3年前H.P.FRANCE THE PAPER誌面でご紹介したナヨウニさんは、昨年の春以降、ノルマンディで過ごす時間が増えています。以前は週末だけ世話していた畑の植物の育ちが格段に良くなり、種類も豊富に。
自然栽培の畑
小さな実がつき始めたりんごの木
必需品のカモミール
育てた植物は、彼女の美容製品の開発材料として、また料理に使うのはもちろんですが、新たなクリエイションのきっかけとなっています。
すでにご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。植物を使って染色したノルマンディ特産の亜麻の生地に、ナヨウニさん特製オイルに浸したラベンダーを詰めたナヨウニのサッシェ。
サッシェの大きさに裁断された自然物で染色した麻
麻のローブ用に新しい色に挑戦
ラベンダーの力を最良のカタチで引き出すためには、ほんの少しの石油化学物質も使わないことが大事と、彼女の植物に対する知識と情熱を込めて、サッシュの四辺をちくちく縫っていました。
休耕地の土壌を自生種を見ながら歩く
ルーペで植物の状態を確認
ナヨウニさんは、平原や林を歩き、植物を観察して納得のいくまで調べます。子供の頃から同じようにして過ごしているそうですが、いくつになっても新しい発見があり、自然から学び、共に生きる大切さを再認識し続ける彼女は、植物の豊かさに喜びと希望をより強く感じています。彼女の作品にも、それは表れています。
ナヨウニのサッシェ
亜麻の畑。花は1日限りです
パリから出られない日が続く中、自然をこういうかたちで感じられると、力が抜けてほっとします。また、一緒に勧めてくれた樹脂香は、樹液や植物から採取した樹脂を焚くもので、最初は立ち昇る煙に驚きますが、部屋に靄が立ち込めると森林浴をしているような気分です。植物と関係が近いナヨウニさんならではのクリエイションを通して、彼女のような自然との関係を築けていけると楽しいですね。 
   
   
       
完成したナイフを手にするパトリックさん

木と特別な関係を持つパトリックさん。数年前、彼の作った木と骨の柄で出来た直径15㎝ほどのナイフが目に入った瞬間、ぞくぞくと全身に走った震えを思い出します。幼い頃から森で遊び、気になったものを拾っては蒐集してきました。拾い集めたものを手にしては、隅々までよく見て何時間も過ごし、そうしているうちにいろいろなことがわかってくる。そんな記憶は、ありませんか。パトリックさんの作品から感じるのは、それにとても近いのです。
テーブルや台所以外で使う刃物に興味を持ったことのない私が、あのナイフに魅かれたのは、そうしたことが理由だと思っています。


自作のアトリエ

彼は森に落ちている木片を拾い、切り株を掘り出し、骨を拾い、彼のアリババの洞窟ならぬ小屋に入れておいて、その時が来るとアトリエで制作をはじめます。
木の幹を旋盤に設置し、形に合わせながら調整
拾ったメタルをナイフの刃として整える
ナイフの刃は、森歩きで見つけたメタルの破片であったり、閉鎖された工場のグラインダーの刃であったり、折れて使えなくなったナイフの刃ということもあり、すべて別の何かとしての役割を終えたものです。
パリ北駅の階段に使われていた木材と折れたオピネル製の刃を使ったナイフ
木の幹のペッパーミル
つい先日、アトリエを訪れると、大きなランプが下がっていました。107歳の大木の切り株から作ったランプシェードです。パトリックさんが切り株をアトリエに持ち込んだ時、年輪を数えるようにと促され、いつもは目見当で済ませることを、その時はひとつずつ数えて第一次世界大戦の始まった年に生まれたことがわかると、「逆境の最中に生まれても、成長して美しい人になることが出来る」と聞こえたそうです。


107の年輪のランプ


役目を終え、静かに横たわり、または土の中に埋もれていたものを大事に持ち帰り、保管して、制作する。そうして完成した作品は、それぞれのなりたい形をもってあらわれる。頭で考えて出来ることではない、木と彼の親密度から生まれるクリエイションです。



ともすると、よく耳にし、目を引くことばかりに気を取られ、それがすべてであるように思いがちですが、気になったことと向き合って探求し続けていくと、想像を超えてつながるということに、わたしたちの望む未来が見えるようで、なんだかとても嬉しいです。

※パトリックさんの写真はフォトグラファーでもあるご本人によるものです。
 
二人の作品は、H.P.DECOアッシュペーブチックH.P.DECO 好奇心の小部屋 福岡店にてご覧いただけます。
また、記憶 H.P.FRANCEH.P.DECO 好奇心の小部屋 二子玉川店では、ナヨウニさんの作品をご覧いただけます。ぜひ二人の作品について、スタッフへ感想をお聞かせください。





文章

髙浦 敬子(たかうら けいこ)
コンセプター。アッシュ・ペー・フランス企画室所属、パリ在住。