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H.P.FRANCE サステナビリティ対談
Vol.2 作り手の想いを紡ぐ



クリエイターの作品を少しでも長くお客様に使っていただけるよう、どのような想いで仕事をしているのか。サステナビリティ対談第二弾は、作り手の手仕事が凝縮されたJAMIN PUECH(ジャマン・ピュエッシュ)のバッグを切り口に、アッシュ・ペー・フランス修理部のスタッフに話を聞いた。
 

PROFILE

写真左:廣瀬 ちなみ(ひろせ ちなみ)2014年入社、修理部。 
右:内山 直子(うちやま なおこ)2001年入社、修理部。
 

 JAMIN PUECH(ジャマン・ピュエッシュ)
1991年にパリのバッグブランドとして設立、イエ―ル青年クリエイターヨーロッパで1位を獲得。毎シーズン、オリジナリティー溢れる独創的なコレクションを発表。全て職人の手作業で作られるバッグは完成に数日を要するものもある。バッグという世界に斬新な素地やテクニックで表現されるコレクションはまるでアートのよう。

JAMIN PUECHのブランドページはこちら



アッシュ・ペー・フランスに修理サービスが確立されたのは、90年代後半。JAMIN PUECHをはじめヨーロッパの服飾小物を展開するお店が拡大すると共に、お客様から修理のご要望も増え、自社で展開する商品に特化した修理部が発足した。アクセサリー、バッグ、シューズなど様々なアイテムに対応している。

内山
 アッシュ・ペー・フランスでは、クリエイターが一つ一つ想いを込めて生み出した作品を扱っています。クリエイターの想いと、そのストーリーを伝えるスタッフ、そして作品を選んで大事に使って下さるお客様の「好き」という気持ちは通じています。
修理部の仕事とは、クリエイションへのこだわりを尊重したケアを心がけ、その「好き」な気持ちが少しでも長く続くようサポートすること。ヨーロッパでは先祖代々受け継いでいく意識が強く、ものを直しながら長く使うことも当たり前の文化ですが、その意識を日本でも浸透させていけたら、古くても良いものが残り、作り手の想いが未来に繋がっていくと思っています。

広瀬 お客様がお店にお持ち下さる修理品には、それぞれ歴史があり、一つ一つ替えが効かないものです。お店のスタッフとの特別な出会いがきっかけだったり、一目惚れで購入して下さったものもあるでしょう。そういった背景にあるストーリーに私自身もすごく共感しますし、修理品からもひしひしと伝わってきますよね。

内山 お客様からお預かりするものは長くご使用いただく中でそれぞれ味が出ているものも多いので、その風合いを残しつつ修理を施すのは難易度が高いながらもやりがいがあります。
細かいディテールや微妙な色の違いにも作り手のこだわりが詰まっているので、見落とさないことが大切ですね。クリエイターとお客様、双方の想いを想像すると、どんな修理ができるかの答えは一本道ではなく、様々なアイデアからベストな方法を探っていきます。

広瀬 JAMIN PUECHは色の使い方が独特で、日本の市場にはない独自の色のトーンが魅力。その一方、パーツを国内で手配しなければならない場合は、ぴったりのものを見つけるのが難しく、時間を要する作業になります。ですが、沢山の色が一つの作品に収まった時に不思議と調和が取れると、それがJAMIN PUECHしか表現できない世界観に繋がっているのだと気づかされます。

職人の手で繊細な細工が施されたJAMIN PUECHのバッグは、修理部にとっても特別思い入れの強いもの。実際の修理風景をご紹介しながら、「直す側」の視点で見るJAMIN PUECHの魅力を紐解いていく。


 

01 パッチワークレザーを一部交換

 
汚れ落としのできない特殊なレザーのため、部分的に交換する修理を施しました。シンプルなレザーの繋ぎ合わせだからこそ、細かいディテールにもJAMIN PUECHらしさが宿ります。
 
縫い合わせるステッチには最大限の注意を。糸の太さはこのバッグに合うものを探し、見つけた国内メーカーのもの。4枚のレザーの真ん中にある飾りステッチは、職人の制作動画を何度も視聴して手法を再現してみました。  
 
ほどいてしまう前に、再現の為にじっくりと観察するのですが、小さなステッチ一つをとってもこだわりを感じられ、そういった細かい工夫が愛おしい。
 
※汚れたレザー部分の交換が完了。

「このバッグは一体どうやって作られているのだろう」と、作り手側の視点で見てしまい、その構造に感動して益々ポイントが上がる、本当に特別なブランドです。
 
 

02 ビーズ刺繍とドローコード修復

 
毎シーズン異なる技法と素材が使用されているので、まずは過去の膨大なパーツのストックの中から修理品に合うビーズを探します。JAMIN PUECHの刺繍バッグを購入すると、使用したビーズやスパンコールのスペアが付属品として付いてくるので、バッグと一緒に保管しておくと修理の際も便利です。
 
JAMIN PUECHを語る上で欠かせないのが、立体的な刺繍。ビーズを縫い付ける時は、たった1ミリ以下の違いでも針を入れる位置によってビーズがコロンとした風合いになるか、のっぺりとして見えるかも変わってきます。その立体感を再現するために細かい工程を観察してみるとすごく繊細で、毎回発見があります。
 
※刺繍の風合いを残したまま、ほつれた部分を修復。
シーズン毎にコレクションの雰囲気が変わるのはもちろん、同じシーズン、同じデザインのバッグでも、作る職人の手によって一つ一つ違う味が出ています。ただスパンコールが並べられているように見えても、使用する糸の色が違っていたり、作り手の感覚によって作られていることが面白いですね。
 

03 ラフィアバッグの修理と補強

 
ハンドル補強に加え、バッグ内部の生地が劣化していたため裏地を付けて補強。毎シーズンコレクションテーマに合わせて作られている裏地の色や柄にも、デザイナーがこだわりが表れています。「この時代だったらこの柄かな」と想像しながら表面の雰囲気に合った生地を選びます。
 
JAMIN PUECHのラフィアバッグは内ポケットにプリーツの装飾があることが多いので、今回は裏地で再現。
 
ハンドル部分は愛用していると特に劣化しやすい部分。丸ごと交換するよりも、ハンドルまで施された可愛らしいラフィア刺繍を残すため、刺繍で劣化した生地を補強してみました。
 
タグはもともとバッグについていたものを新しい裏地に付け替えました。表側のデザインはそのままに、長くご使用いただけるよう出来る限りの工夫をします。
 
 

04 持ち手のレザー交換

 
持ち手のレザーが破れてしまったので一部を交換しました。
 
ひとくちに茶色のレザーとはいえ、テリやしぼといった質感と、用途に耐えうる強度、両方を備えていないと使えません。時には蔵前や浅草橋に出かけて、個人商店を一軒ずつ回り探すこともあります。
 
今回は大きなバッグを支える重要な部分の修理なので、特に強度にこだわりました。レザーを重ね合わせて強度を出しつつ、元々の軽やかな雰囲気を損ねないよう、もたつかない厚みに仕上げました。
 
 

05 がま口の交換

 
がま口部分のつまみが折れてしまったので、がま口を交換する修理を行いました。がま口の形も色もつまみも多種多様で、ストックパーツからぴったり合うがま口を見つけて交換します。金具にはまち針が打てないため直に縫い付けてゆきます。
 
JAMIN PUECHはがま口も手縫いで取り付けられていますが、内側をぐるりと囲むレースやグログランテープもかわいいポイントのひとつ。表面を見て可愛い!と思ってもすぐ裏地を見たり、ビーズの付け根を見たり、職業柄つい裏方のテクニックに注目してしまいます。自分自身も、この技術を手元に置いておきたいという想いだけで購入を決めることもあります。
 

シーズン毎に展開する商品が異なるアッシュ・ペー・フランスでは、作品との出会いは一期一会。 修理のご相談をいただくこと自体にお客様の深い愛情を感じるので、大変ありがたいことだと思っています。なるべく希望に添えるような形で、できる限りの対応をさせていただきます。 ご自宅で眠っている昔のアイテムなど修理をご希望のものがあれば、ぜひお近くの店舗へご相談ください!
 

※写真: アッシュ・ペー・フランス修理部のスタッフたち。
 
文章:米田沙良(アッシュ・ペー・フランス 広報部)