バルテュスと猫


画家バルテュスは、「自らは猫である」と思っていた様に思える。彼が僅か11歳の時に発表した画集「ミツ」。少年と猫との日常を淡々と描いた作品であり、詩人リルケが前文を添えている。成人した後、描いた自画像には「猫たちの王」という題名を付け、自らの足元に戯れる猫の姿を描いた。

何故猫だったのか。

バルテュスはほとんど独学で絵画を学び、20世紀初頭に全盛期であったシュルレアリズムや表現主義の様な画壇の流行には背を向け、古典絵画の巨匠達の作品の中に自らの描くべき美や構成を探求した異端の画家。

猫は大切な事を自分で学ぶ。獲物を捕まえること。走る事。体を伸ばすこと。自分で考え、観察し、実験する。誰かの真似はしない。

美術館に足繁く通い、模写に時間を費やしたバルテュスは、猫がそうであるように、自らの目で観察し、自らの頭で考え、自らの手で筆を走らせた。トレードマークともいえる煙草を、いつも燻らせながら。猫は学校に行かない。学校に行かなくても猫は猫であれる術を身に着けているから。

亡きバルテュスの妻である、節子・クロソフスカ・ド・ローラ夫人。節子夫人がアスティエ・ド・ヴィラットのパリのアトリエで土を捏ねて形作ったこの香炉は、愛するバルテュスへのオマージュだ。お線香を半分に割り、火を点しておなかの中に入れると、猫の口元から香煙が漏れる。ゆらりと漏れる煙は、まるで猫が煙草をくゆらせている様。

猫を愛する人間は多いけれど、誰にも縛られず猫のように生きられる人は少ない。この香炉は、節子夫人の愛した画家バルテュスそのものなのだ。

品物:猫の香炉
作者:アスティエ・ド・ヴィラット、節子・クロソフスカ・ド・ローラ