時間をとって!


TZURI GUETA | ツリ・ゲタ




今世の中では常に速さ、そして新しいモノが求められ、その求めるスピードもどんどん極端に加速しているなと感じます。私がフランスに来た当時、社会現象や流行を分析・リサーチする会社で仕事をしていました。そこではトレンドを作り、それを打ち出すスピーディーなリズムの中に自分が置かれ、今良しとされるものが3か月後にはもうだめになる。もはや不可能なリズムを強いられるわけなのですが、この消費のリズムは、特にシーズン性のあるモード界において矛盾を来していると思います。このスピードの中で、2、3か月で奥深いリサーチをしてコレクションを作り上げるのはとても難しいからです。私のコレクションはリサーチ、研究期間がとても長いので、このスピードの速さをつくづく感じます。コレクションをプレゼンテーションするだけでなく、ウィンドウを次から次へとスピーディーに何度も変えて、母の日だ、父の日だ、セールだ、ブラックフライデーだ…といろいろな機会を生み出しては、それに合わせて行かなくてはならなくなっています。今アーティストやクリエイターは皆、ずっと以前の「過去への回帰」を夢見ることがあるのではないでしょうか。シーズンごとにゆっくり熟考し、リサーチしながらコレクションを作り上げていく過去を。今は「深さ、奥行き、濃さ」というものに欠けていると感じますね。現代社会では皆スピーディーにイメージを求めますが、それ自体は数秒後には忘れてしまうものだったりする。
 
 

クリエイションにおける「豊かさ・財産」


私は学生と作業する機会も多いのですが、皆すぐに「結果」を求めます。新しいジェネレーションは残念ながらコンピューターで作業して、3Dのソフトとかプリンターを使って作ることに関心を持っていて、プリントアウトしていきなり最終の形を想定したりするんです。そういったテクノロジーがもたらす便利さの問題は、人がリスクを負ったり、迷ったり、自分を見失う時間をなくしてしまうことではないでしょうか。素材に触りながらどう反応するかを見たり、間違えたり…という工程を全部省いてしまって。でも私にとっては、クリエイションにおけるリシェス「豊かさ・財産」は途中の失敗や不良の中に見出すことが多い。私はハッピーアクシデントと呼んでいますが、無心で何かをやっている時に見つかるものってとても多い。逆にどこへ行くか、もう全部分かっている時に失うものもある。たとえばノートルダム寺院に行くのに、GPSを使うと一番短いルートを指定しますよね、それでは新しい発見はない。でも自分の足だけをたよりに歩いて行けば、道に迷ってしまうかもしれない。けれど、その結果いろいろな場所だったり信じられないような素敵な発見があったりするのと同じです。今の社会ではそういう「豊かさ」を失いつつあるように感じます。
人がそういう時間をどんどん省いて、スピードとテクノロジーを追いかけ、時間を取ること、時間をかけて素材に向き合うというイニシアティブをどんどん減らしていて残念に思います。
歴史を振り返るといつも新しいテクノロジーは、その前の古いそれに取って代わりました。その流れ自体は常に同じですが、今何が違うかというとそのスピード、速さです。常にどんどんどんどん加速していく。
毎日子供を見ていても思うのですが、数年前だったら考えられませんが、食卓にみんなが着いているのにメールの着信音がすると画面を見に行くなんてことがあります。新しく発見された「豊かさ」は私達に何をもたらすかというと、このメッセージの着信音とともに、アドレナリンを刺激し満足を与えるわけです。「ぞっとする」とあえて言わないようにして、関心深いという表現にしておきますが…。
私は、1日の中で「自分の時間」を作り、その時間は自分がしていることを意識して感じるようにしなくてはいけないと思っています。今の世界では、たくさんのことを一度にしているけど、そこに意識が欠け始めているのではないでしょうか。心ここにあらずのクリエイションでは満足が得られることはないと思います。

世界観の扉が開き、誰かに伝授される


私は以前はアトリエで過ごす時間が90%、オフィスでの時間が10%くらいでしたが、それも変わってきてしまいました。やらなくてはいけないこと、返信・返答しないといけないことが山ほどありますから。人に会って返答するにしても、あなたがそこにいるのを人は見たいし、話したい、人が理解するためにそこにいることを求められます。
モード界を見てもそれはよくわかりますよ。ビッグメゾンのクリエイターが、これまで意識してクリエイションにかけていた時間は、今やスターと仲良くする時間になっています。スターに服を着てもらうことがマスを説得することにつながるから、スターといる場所が一番重要であるとわかったわけです。でも私は大多数の「これがベストです」「こうするのよ」「こうしたらうまくいきます」と言うその説得方法に従いたくないし、私達の子供にもそれに沿って欲しくないです。
私には自分の子供に伝えていきたい自分の価値観があります。でもあなたの考えが外部の社会と相反していたらそれはだめなんですよ。現代社会ではBulle(気泡)の中や、どこか外のヴィラージュの中で生きているのとは違いますから…。大人の私達自身、何が自分達にとってベストなのかわからないことも多い。自分の子供に他の子供達のように携帯電話を持たせるのか否か、とか。自分の子供を民主的な学校に入れて自然に触れさせるのか否か、とか。でも学校を卒業したら、子供達はもっと恐ろしい別物の実社会に出て行かなくてはいけないから、しっかりしたベースを作ってほしいなというところに行き着きます。



私達クリエイターは静かにクリエイションができる場所を見つけ制作に努めるわけですが、外部の世界は全然違う。この外部の世界を突破して食い込んで行きたいと思ったら、やっぱりツールが必要になります。
今日ソーシャルネットワークを使わない、インスタグラムもフェイスブックもありませんというクリエイターはいないし、なかったらダメってなりますよね。自分の生活を注意して守ればこの新しいシステムを取り入れることはできると思いますが、難しいですよね。クリエイターは皆、成功したい、自分のコレクションが売れてほしいという思いも遺伝子的に血の中に持っているものだと思いますが、共通して願うことって、作ったモノを誰かが受け取って、それを評価してくれる、それだけだと思うんですよ。お金の問題なんかじゃない。クリエイター、アーティストの誰もが作品を購入してもらってそれが評価されるという、一つの認知を願っていると思います。それは私達の世界(観)の扉が開き、誰かに伝授されたということになりますから。
でも独自の世界観を維持するのはなかなか難しいから、外の世界とのコンタクトを断ち切り制作活動をしているアーティストもいるわけですが、世界観を維持しつつ、外部の世界も突破するというのはある意味アーティストにとってとても大きな妥協なんですよね。そのバランスはとても難しいものです。

私は展示会の数平米のスペースでは定義できない世界観をこのアトリエで見せたいと思っています。それはビジューだけではありません。ノウハウなんです。Mode de vie(生き方)でもあります。そして、それに伴うたくさんのことで、それは私の自然に対するエンゲージメントでもあるんですね。

クリエイションは自然へのオマージュ


私は珊瑚を守る『コーラル・ガーディアン』のメンバーとして積極的に活動しています。自然に関わることで自分にとって大事なこと、自分の心に響くことについてはいろいろな活動をしています。なぜなら、私が作るすべての作品は自然があってのものなので、自然に対して本当に感謝しているから。ここでプレゼンテーションしているものには自然とのストーリーがあります、私はインスピレーションはもらうけれど、自然から何かを奪うということはしません。私のクリエイションは自然へのオマージュなんです。

自然を、たとえば身近な花をよく観察して見ると(それを人にも勧めたいんですが)花弁よりずっと重要なものすごいディティールが見えてきます。自分の好奇心をくすぐる謎めいた何か、ストラクチャーとかを見ると、アトリエに戻って、そのイメージをどう解釈して表現するかを考えます。それがいつも私をもっと先へ、さらに遠くに持って行ってくれる推進力になっています。そこから表現を可能にし、その花に似せるテクニックを見つける。でもそれはコピーするということではありません。それは伝えたい何かを自分で知ることです。アーティストはフィルターで、私が見ているものは子供時代の記憶、現在の記憶であり、それをアルチザナ(職人の手仕事)で表現し、そこにある思い、印象とか魂とでも言ったらいいのかな、を与えることができたらと願っています。
子供達は森で散歩していると花びらとかいろいろ見つけて来て「パパ、これ見て見て!」「これ見た?」って感嘆するんですよね。彼らにとってはとても自然なことなんですが、私達もそういう時間、習慣を常に急いでいる生活の中に組み入れる必要があると思うんです。1日の中で静寂の時を見出すためにメディテーションする人も増えているように。言うのは易しですが…。あまりにもシンプル過ぎるから、人はこういう時間を作らなくなっているのではないでしょうか。
だからPrenez le temps ! Sentir!(時間を取ってください。自分で感じるということ!)

私の作ったモノって目からの情報だけでは、どうやってできているかがわからない。モノに対して好奇心がある人って、美術館なんかでもそうだけれど、禁止されていても触りたくなりますよね。私は自分のプロダクトを誰かが触ってくれたら、もうそれだけで成功のひとつだと思っています。私の作ったモノに何か好奇心を掻き立てるものがあり、人はそれを理解したいと思うわけですから。大概は見たら触った時の触感の予想がつきますが、私の作るモノはよく、触ってみないとわからないと言われます。触った瞬間、それが変形するようなブヨブヨしたやわらかいモノなのか固いモノなのか見ただけでは想像がつかない。だから皆実際に不思議そうに触ったりする。でもそれは私にとっては成功なんです。謎を作ると言うか好奇心を掻き立てるのが好きなんですよ。
自分のクリエイションによって、見る人が足を止めたり触ってみたりすることになるのは、その人が「時間を取る」、「時間を作ること」になるわけですから。
(聞き手:花岡香織)


ツリ・ゲタ
イスラエル出身で、フランスで活動するジュエリーデザイナー。“lace fed with silicone”(シリコンが含まれたレース)と呼ばれる特殊技術を編みだして特許を取得し、アクセサリーとジュエリーのコレクションを始める。オートクチュール業界とも様々なコラボレーションも行っている。テキスタイルとシリコンの2つの異なる素材は、自然的で海や植物のミクロの世界に触発されたモダンコレクションによって共鳴している。

代表取扱店舗:記憶 H.P.FRANCEH.P.FRANCE Boutique