唯一の価値は幸せでいること


Jérôme Dreyfuss | ジェローム・ドレフュス




アルチザナの手仕事


今、私達クリエイターは色々なことを自分に問いかけていると思います。社会も世界も変化を遂げ、自分達の役割は何なのか?自分達にそぐわない過去のシステム、すなわち消費をすればするほど気持ちが良くなると人に信じさせることを助長することなのか、それとも、消費を控えながらより上手な消費を提案することなのか?ってね。じゃあ、より良い消費をするってどういうことなのかという問いが次に来る。それは、おそらく消費は少なくするけれど、時々本当に自分を喜ばせるピースを購入することかな?そのピースは通常より少し値段が高めになるかもしれないけれど、そこには多くのアルチザナ(職人の手仕事)が介入することかなって。
アルチザナとは、それはまず何よりも伝承、継承だと思います。私は自分の仕事の中で何に興味があるかと言ったら、まさしくこの手でモノをつくること、手作業なんですね。

あ、ちょっと待って、ほら、あそこを見て!(と、中庭の木の枝に止まっている小鳥を指さし)このところずっと毎日同じツグミが来るんですよ。この間、ビデオに撮ったんだけど、庭で水を撒いていたら、いつもの同じ彼が来て鳴くんですよ。口を開けてキュィーってね。話をアルチザナに戻すと…(と言っておきながら、小鳥に目を向け「ほら、また鳴いた」)この業界に入って最初に学んだことでした。私はデビュー当時にすごく幸運なことに刺繍の専門家で偉大な職人、ルサージュ氏(CHANEL傘下の刺繍のメゾン創始者)に出会い、彼から教えを受け、支えられました。アルチザナの手仕事の多くをそれへの熱意とともに彼から学びました。一番学んだことは、目に見えないけれども投入しなくてはならない大事なもの、それはハートだということです。
心をこめて作ること。見えないけれどもそれは感じられるものなんですよ。私は本当に強くそれを信じています。何かを作る時にそこに心がこもってなければ魂のないものになってしまう…いいモノを作るにはハートが投入されていないといけないと思います。私達クリエイターはある思い、ポジティブな何か、快適な思い、幸福感、ノウハウといったものを投入し伝えなくてはいけない。今の世の中はそれを随分忘れてしまっている気がしますね。
 
 

本当のリュクスの概念


社会では「フェミニズム」「より多くの女性の社会進出」「女性を守る」等が話題になりますが、女性自身が女性のポジティブではないイメージを提示しているのを見ると、とても不思議です。私は昔から自分でも知らない間に本当のフェミニストでしたから。数年前に肩を骨折して入院したことがあるんですが、その時も真に助けてくれたのは医師ではなく女性の看護師さん達でした。適切な時に適切な言葉で凹んでいる私を力づけていた、私の中のヒーローでした。私は女性が好きですし、女性を常に尊敬しています。

今の世界では結局、情報の扱い方と人を消費に追い立て、すべてにおいて常にセンセーションを求める風潮が問題だと思います。それはさっき私達が見たように、中庭に立ち寄った小鳥の姿に心を動かされるといった、最もシンプルな日常の一番素晴らしいことを忘れさせてしまうと思うんです。下品なイメージの女性がレッドカーペットの階段を上っている姿を見るよりずっと素敵なことなのに。私は16歳になる息子がこういう怖ろしいイメージから影響を受けてほしくないなって思います。ニセの唇、ニセのバスト、ニセのヒップ、すべてが偽物です!でも女性も男性も、欠点も含めその弱みというのか、何か欠落した部分…そこに魅力を感じますね。自分の仕事の話に戻って言えば、僕が一番感心を持っているのは、まさしくそのアンパーフェクション(パーフェクトでない欠陥部分)です。
本当のリュクスの概念はそもそも「そこにかけられる時間」「手作業」「繊細な感受性」なんです。今の世の中はそこから外れてだいぶ遠いところに行ってしまいました。

自分の直感を信じて

現代社会では大多数の人に、消費をしたら幸せになりますよ、お金があればこの最新バスケットシューズを買うと幸せになりますよ、というメッセージは投下する。けれど、それを買っても幸せにはなりませんよ、というメッセージは送らない。人生の重要な目的が幸せであることだとは教えません。人生の目的って何?って聞いたら大概の人は「これが欲しい」「あれがあったら…」と「所有すること」を語る人がほとんどです。でも本当に人が幸せであるためには、「パルタージュPartage(人と分かち合うこと)」が絶対に必要で大切だと思うんです。
今や自分が感じることを発言したあかつきには周りの人に茶化され「おまえ霊能力者か?」なんて言われ、ナイーブ呼ばわりされちゃうんだけど、でもそれでいい。45歳になるけど、ナイーブが自分に合ってるって思います(笑) それで幸せだし。結局私達のやっている仕事って、そこだと思うんですよ。社会がこうあれという潮流に流されず抗うことに成功すること。自分自身の直感を信じて常に他を探してみる。「もう一つの道を見出し明かりをともす」ということを日本人の皆さんはよく知っているのではないでしょうか?
自分は仕事上で実現できている、とまで自負できないけれども少なくともそれをしようという思いがあり、自分の本能がそれを求めています。これまでも誰が何を言おうと自分の直感だけを信じて進んで来たから、今日自分は幸せな人生だと言えるかなあ。

私はフランス特有のフレンチ・ネグリジェ(たとえば起き抜けのぼさっとした髪のように、ナチュラルでどこか力を抜いたパリジェンヌのファッションスタイル)っていうのが大好きなんだけど、私のバッグも、仕上げてきちっとし過ぎてるのが嫌で、わざとバッグを叩いたり(ショールームに飾ってあるバッグを手に取りパンパン叩きながら)くしゃってさせるんですよ。その方がパーソナリティーがあってバッグが生きている感じがして…。
バッグ作りの中で夢見ることは、たとえば蚤の市でも、東京の街中でもいい。ある時、何も探していないんだけど、突然あるピースを発見する感じ。そのピースに呼ばれる感覚ってわかります?説明がつかないんだけど、そのピースはあなたのためのものであなたを待っている。人との衝撃的な出会いと同様に。自分のバッグ作りにその衝撃的なサプライズをもたらすことができたら最高ですね。だからパーソナリティーを与えるためにバッグにも人の名前をつけてるんです。自分の仕事のバッグ作りにはやはり自分の価値観を反映したい。その価値観はお金でもなければ名声でもない、唯一、幸せでいること、幸福感です。



ある年代になると、血縁の家族以外にも一緒に歩んできた価値観を共有する親しい友人達によって、もう一つの家族が構築されていることに気づきます。そういう仲間と毎年夏にバカンスに行くと、もう他に何も要らないなって思えるんですよ。みんなで話したり一緒にいるだけで快適で、夜空を見て、そのまま眠り込んで、朝になってイザ(妻:デザイナーのイザベル・マラン)に子供みたいに起こされて…。でも自分が子供でいることを許すこと、子供のファンタジーを失わないことが自分のクリエイションに必要で、ナイーブさと同様にとても大事だと信じています。子供のファンタジーの世界、規則に縛られない感嘆の世界。私達クリエイターの役割とは、難しい現代社会で自分で自分を探す直感をなくしてしまった人々にこのファンタジーを届けることでもあるのかもしれません。アート作品にも通じますが、人の心を動かす何かを届けることができたらって思います。
現代社会ではビジネスが前面に押し出されて、感受性や何かの伝承・伝授の場所がどんどんなくなってきています。息子とはフォンテーヌブローの水も電気もない山小屋で週末を過ごす生活を15年間してきました。彼は自分の手を使って何かをするということを学びましたよ。
 
 

表現の自由、愛する自由
(他と)違うことの自由


いろいろお話しましたが、「自分が感じる」ということがいかに大事かということです。人も動物と同じように直観的に感じるものを持っていて、私も自分の感じるところを正直にものづくりに反映したいと考えます。そしてその正直な思いがバッグを持つ人に感じてもらえたらと常に願っています。
そして今私達はいくら収益が上がるかだけではなく、もう少し先のことを考えないといけない。システムの中に居ながらにして、暴力を使わず、人に敬意を欠くこともなく、何か変えたいと思うことをどうやって実現できるのかを考えます。それは革の取り扱いや、革がどこから来るのかという選択もそうですが、花や樹皮から来る染料を使ってナチュラルな染色をしたり…地球について考えながら過度の消費に流れないことに留意しています。バランスを崩さない未来のための消費を自分なりに模索しながら進みたいと思っています。全然完璧ではないけれど、でも少しずつ、物事がもっと意義のある方向に進化し、「愛」とか「Simplicité=シンプル(な物事)」、「幸福」に帰結するようにって思います。
今自分が言いたいことってそんなことかなあ。でも明らかでしょう?
Liberté=自由があって、表現の自由、愛する自由、(他と)違うことの自由がある。自分がやっていることを信じながらその大切な価値観を共有することかな。
今シーズンから自分のできるレベルで何かを変えたいと思い、森林破壊を阻止する団体『クー・ドゥ・フォレ(森のハート)』を支援しています。Jérôme Dreyfussのバッグを一つ買うと1ユーロ寄附され、ボリビアの村に植樹するんです。食に困り森の木を売ってしまう村民が自給自足できるよう、フルーツの木を植樹し、徐々に農業で自活できるように支援します。少しずつだけれど…今から次のノエル(クリスマス)に向け、Jérôme Dreyfuss社は4,500本の植樹を助けることになるんです。
その次のプロジェクトとしては大西洋を救う『Yes Future』という海洋を清掃する船の支援プロジェクトも考えています。もう亀の鼻にプラスチックのストローが刺さっている姿なんて見たくない。本当に泣きたくなってしまうから。自分のクリエイションが、人を指導するのではなく、何かインスピレーションを与えることが出来たらやっぱりとても幸せですね。

(聞き手:花岡香織)


ジェローム・ドレフュス
フランスに生まれたジェロームは、幼いころからモードに憧れを抱き、23歳の若さでパリコレクションにデビュー、数々の賞を総なめにする。2002年にはアクセサリーラインを立ち上げ、メンズライクをモードに落とし込みながら、吟味された素材とディテールにこだわり、数多くのブティックで取り扱われるほどに成長した。

代表取扱店舗:goldie H.P.FRANCETheatre H.P.FRANCE