ショップ

ブランド

アーカイブ

2019.02.07
コラム  「魔女の食卓」
レストランで案内されると躊躇することがある。


それはこどもが泣き叫ぶファミリーのテーブル席ではない。
泣くのは体力がいる。小さい子どもは長時間泣き続ける体力を持ち合わせていないからじき静かになる。

躊躇する食卓。 

それは女性だけの食卓の横。 

とにかく彼女たちはパワフルだ。こちらはせっかくの休みでしかもぐったりしている状態。
彼女たちの元気なパワーバランスに、さらに心身とも削られダメージを与えられる。
それは男性を排除、無力化させるパワーをもつ。この力の源泉はどこから出てくるのであろう。


文筆家の五所淳子氏はあるリメイク版映画についてプログラムでこう評論している。

「煙草を吸いたくなる映画はいい。魔女がわんさと輪になり、寝起きのガウン姿で、ディナー用に着飾って、煙草を、酒を、コーヒーを威風堂々と口に運ぶ。適度ににふてぶてしく見える女たちはくつろいでいる。みなが操り人形として役割をまっとうする舞踊との違い、食卓は女たちの生態のトーンがあって快い。よく食べ、よく喋り、よく集い、よく交わす。」 


そのあるリメイク映画とは「サスペリア」(2018年版)だ。 ついつい躊躇してしまう女性だけの食卓の隣に居合わせる居心地の悪さを流麗な文体で五所氏は表現してくれている。


 

ダリオ・アルジェント監督の伝説の名作といわれる「サスペリア」(伊1977)。いわずとしれた魔女をテーマに扱ったホラーの金字塔だ。
それを今、ルカ・ヴァダニーノがリメイクして話題となっている。
 
小学校の頃に映画館で見た私は、ホラー映画にもかかわらず、その煌びやかで美しい映像美と音楽に夢中となった。
アメリカからベルリンのダンス学校に留学した主人公スージー・ヴァニヨンが、学校の中に潜伏する魔女の集団に襲われるというオリジナル版の内容。



(アルジェント映画は自身もコレクター。他にもレアなDVDを所有しています。)


オリジナルとリメイクは大きく変わる。
リメイク版では魔女の歴史、史実を忠実に再現。

また70年代のベルリンというナチスの影響もまだ残る政情不安定な時代設定。
そしてコンテンポラリーダンスに主軸を置いた斬新な演出や、レディオヘッドのトム・ヨークが全編音楽を担当という、豪華なスタッフ陣となっている。


たとえて言うなら「新世紀エヴァンゲリオン」を、洗礼を受けた遠藤周作が小説に書き直したような。高級な懐石料理になってしまった。

特に70年代ベルリンの政情の不安定な状況を描く上で、男性を徹底的に排除し
女性にクローズアップしている点が新鮮である。女性が自身を守りゆくための、魔女との互助組織がメインテーマといってもよいでしょう。

ルカ版「サスペリア」はぜひ女性に見ていただきたい作品。

途中の残酷・ゴアシーンで途中退出した女性もいたが残念である。
テーマは「女性の恐ろしさ」ではなく「女性の強靭さ」なのだから。
映画の後半に登場する、赤い衣装をまとったダンサーのコンテンポラリーダンス「魔女の踊り」は圧巻。 
ダンスは「空中に残す芸術」ですのでぜひお奨めです。

このダンスの原型はドイツのモダン・ダンスのダンサーのマリー・ヴィグマンがモデルとなっているといわれています。
彼女の舞踊団はナチによって退廃的なものとして一時閉鎖に追い込まれる。その史実も興味深いエピソード。





物語ではタバコを吸いながら稽古場にたつマダム・ブラン先生が印象的。 
ほかの振り付け師もタバコを吸いながらダンサーに指示を出している。
その姿は、10年ほど前に他界したドイツの振り付家のピナ・バウシュを思い出させる。

ファッション界では、タバコを吸いながら仕事をしている姿で思い出されるのはココ・シャネルだ。

ショーの直前までモデルに直接、気に入らない箇所をタバコを吸いながら裁断をしていく。モデルの洋服に燃え移りそうな至近間のくわえタバコ。
その姿は何かに逆らっているかのようだ。


それは戦後まもなく国家が「女性に生めよ増やせよ子宮を明け渡せ」と要求した暗い時代に反抗するような姿だ。 
そんな時代から産声をあげたシャネルの女性解放の洋服。
彼女は孤児院で厄介者として扱われながら「お前は貧乏の星の下に生まれた」といわれ続けた。

シャネルは「お金がなければ男に頼るしかない。 でも嫌な男しか、よってこなかったら・・・。  そんな人生はイヤだ。地獄と一緒だ。だから私は自分で稼ぐことにした」
と言っていた。

この当時のタバコと女性の関係性は自立の象徴であった。




今回は自立する女性の象徴にぴったりのルージュなJACQUES LE CORREバッグをお奨めいたします。いかがでしょうか。



コラム執筆 戒田 格(かいだ いたる)





2011年入社。学習院大学大学院フランス文学専攻修士修了。
横浜goldie一筋9年目突入となりました。お休み午前から叶巨壽庵の和菓子とバーボンの宅呑みが至高の幸せ。